■ プレ戦略イニシアティブ期間における具体的な研究拠点形成計画 ■

①拠点形成の目的、必要性・重要性
今後予測される地球環境変動や人為的諸活動に伴う環境劣化において,持続可能な水環境の実現と水資源の確保は,人類が避けて通ることのできない喫緊の課題である。この課題に対峙するためには、工学、農学、理学等の学術分野、および環境省、国土交通省、経済産業省、文部科学省等の省庁が、真に英知を結集し、目的解決型の学省際的・統合的で強力な取組が必要不可欠である。 また、水資源・水環境の研究には、地域的固有性に着目する視点と、地球規模で俯瞰的に考究する視点との併用が重要である。
こうした観点を実現するためには、組織益、省益、領域益といった狭隘な枠組みを超越しなければならない。前ページの概念図に示すように,水循環,水環境,生態系,水利用,それぞれの観点から水に対して,各コミュニティおよび組織が、互いの得意とするアプローチや観点を尊重しつつ、普遍的な価値観や視点を醸成し、しなやかでかつ強固な研究を行うことで、成果を国の重要政策に還元し社会実装化することが可能となる。
しかしながら,現実の水環境や水資源関連政策は,文部科学省や農林水産省,林野庁,経済産業省,国土交通省,環境省,厚生労働省など,各省庁による個別の政策に基づいているのが実態である。筑波研究学園都市においても,主なものだけでも,下記の8箇所の研究所に分散して水循環,水環境の研究が行われている状況にある。

文部科学省:(独)防災科学技術研究所
農林水産省:(独)農業環境技術研究所,(独)森林総合研究所
経済産業省:(独)産業技術総合研究所
国土交通省:国土技術政策総合研究所,(独)土木研究所,UNESCO 水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)
環境省  :(独)国立環境研究所

一方筑波大学においても,水循環・水環境に関する研究や教育は,実際には,各教員が出身学部や学科に理念に基づき、関連する各省庁の政策に応じた研究教育を行っているという実態がある。しかしながら,自然と共生した持続可能な水資源・水環境の実現のためには,このような「縦割り」的な研究教育体制は全く役に立たず,学際・省際的な新たな研究教育の拠点を形成する必要がある。
そのために,われわれは,筑波研究学園都市の利点を生かし,水関係の研究所間のネットワーキング化を図りつつ,オールつくばの連携による持続可能な流域圏水環境の研究拠点を構築する。また,リーディング大学院構想による研究教育の高度化を行うとともに,最終的な目標として,筑波大学において,流域圏水資源・水環境研究センターの設立を目指す。

②拠点の運営体制
アイソトープ環境動態研究センター 恩田研究室内に事務局を置くとともに,陸域環境センターを中核研究拠点として位置づけ,プレ戦略イニシアティブの研究拠点化を図る。

③研究拠点形成に係る研究内容
<研究の背景>(国内外における研究状況・位置付けを含む)
筑波大学は,水循環研究の国内最大教育拠点の1つであり,理学系において,水文学プログラムを教育課程として有している唯一かつトップクラスの研究・教育を行っている大学である。
それに加えて,生命環境科学研究科,システム情報工学研究科を中心に,応用的な水循環科学の研究・教育が様々な専攻にまたがって広く行われている。
筑波大学においては,このような充実した教育課程を有するため,これをネットワーク化し,高度化した場合には,環境変動についての理解があり21世紀の持続的な水・物質循環社会を担える人材の輩出が期待できる。
さらには,水に関する研究レベルも突出している。Web of Scienceの分析(2011/02/06)によれば,1990年以降の論文について,件数は東大・京大にやや劣っているものの,平均引用数は筑波大の方が優位であるという結果を得た。これらのことからも,少なくとも質的には国内トップレベルの研究を行っていることは明らかであり,今後のグループ化によりさらなる飛躍が想定される。

Univ Tsukuba-Water Resources:論文数233:h-index22 引用数 平均7.95 最大97
Univ Tokyo-Water Resources:論文数458:h-index23 引用数 平均6.16 最大54
Kyoto Univ-Water Resources:論文数678:h-index27 引用数 平均5.64 最大83

<研究の特色・独創性及び予想される結果と意義>
本研究は、新たな学際的な教育・研究として,以下の諸項目を目指すものである。
・リーディング大学院と連携して,地球環境変動に対応する水循環科学と諸政策を結んだ学際的な教育・研究の確立
・筑波地区研究所の英知を結集し,オールつくば体制での水・物質循環に関わる研究の融合と問題の共有化
・流域の土地利用と水物質循環の関係の解明より持続性(人間のニーズとエコロジカルなニーズの両立)を評価し,追求・各種トレーサを用いた環境劣化に関する評価法の開発
・流域圏水資源・水環境研究センターの設立による研究拠点の形成


④研究計画・方法

平成23年度
まず,つくば地区の水関連の研究者オールつくば体制をつくるために,つくば水コンソーシアムを立ち上げ,共通の情報発信プラットフォームの一つとしてホームページを立ち上げる。そこで,研究員・技術補佐員によって,各研究所の研究者のデータベースを構築するとともに,各メンバーが,研究所を訪問して,コンソーシアムへの参画および,今後の研究会参加への内諾を得る。 本研究グループにおける既存のCREST, 地球環境推進費等のプロジェクト間の相互理解をはかるためのワークショップおよび現地相互訪問を行う。年に5回程度,つくば内研究所のメンバーと共催で,国内・国際セミナーを開催する。講演内容は、テープに記録し、その後テープ起こしをし、パワーポイントファイルとともに、ホームページにアップする。また、議論の記録を同時にホームページにアップし,実質的な議論の場を形成する。 国際交流協定を締結してある外国研究機関を中心に(Sheffield大,中国科学院等),大学院生の海外派遣,研修を目的として,実質的な企画を行う。 また,サブグループの組合せにより研究・教育企画を練り、最終的な目的を見据えて予算申請する。そのために,CREST水領域,地球規模課題対応国際科学技術協力事業(JST-JICA),地球環境総合研究費への応募を行い,大型資金の獲得をはかるという正のフィードバックを起こすよう努力する。とくに最新の設備を確保するため,研究科,ならびに大学の新規購入,設備更新計画に載せるよう申請を行うとともに,外部プロジェクトに積極的に応募する。また同時に,藻類エネルギー分野と共同でのリーディング大学院プログラム申請をおこなうとともに、さらなる学際的な取り組みを加速させる。

平成24年度
引き続き,つくば水コンソーシアムを中核として,プロジェクト間の相互理解をはかるためのワークショップおよび相互訪問を行う。年に5回程度,つくば内研究所のメンバーと共催で,国内・国際セミナーを開催する。講演内容は、テープに記録し、その後テープ起こしをし、パワーポイントファイルとともに、ホームページにアップする。また、議論の記録を同時にホームページにアップする。これらのデータは研究員によって分析し、問題点を抽出する。 さらに,平成24年度概算要求による生命環境科学研究科生命共存科学専攻の改組を盛り込み,水物質循環を基盤として、個々の地域性に応じた評価,対策,適応,気候変動の緩和などの施策に資する教育・研究を実施する。大学院生らの国際交流を継続する。 サブグループの組合せにより研究・教育企画を練り,最終的な目的を見すえて予算申請する。そのために,地球規模課題対応国際科学技術協力事業(JST-JICA),地球環境総合研究費へ等への応募を行うとともに,特別研究経費等の概算要求に応募を行う。藻類エネルギー分野と共同でのリーディング大学院プログラムを実施するとともに,さらなる学際的な教育の取り組みを加速させる。

平成25年度
引き続き,つくば水コンソーシアムを中核として,プロジェクト間の相互理解をはかるためのワークショップおよび相互訪問を行う。年に5回程度,つくば内研究所のメンバーと共催で,国内・国際セミナーを開催する。講演内容は、テープに記録し,その後テープ起こしをし、パワーポイントファイルとともに、ホームページにアップする。研究員によって分析された結果等をふまえて、オールつくばの連携による持続可能な流域圏水環境研究に関する議論の記録をホームページにアップする。これらの情報をとりまとめることにより単行本を作成し,一流出版社より刊行することにより社会還元を行う。 サブグループの組合せにより研究・教育企画を練り、最終的な目的を見据えて予算申請を継続する。また,特別研究経費等の概算要求に応募を行う。 藻類エネルギー分野と共同でのリーディング大学院プログラムを実施するとともに、さらなる学際的な教育の取り組みを行う。筑波大学において,水資源・水環境研究センターの設立のための概算要求を行う。

(3)研究拠点形成に向けての現在までの準備状況
国内の研究機関のみならず,海外の有力な研究機関,例えばアメリカ地質調査所(USGS),国際原子力機関(IAEA),Sheffield Univ. 中国科学院,モンゴル国水文気象庁,などの研究所,欧米・アジア・アフリカ・南米の諸大学との間で国際交流協定を結ぶ等,様々な形で共同研究を行うとともに,大学院生の教育にあたってきた.特に最近では,グループ内の大学院生を交流事業に積極的に関わらせることから,グローバル意識を高めるとともに,自分の専門以外の領域での問題点を理解させるとともに,技術も習得させるよう努力している。また,中核グループは様々な会合を重ね,各種予算要求を行うとともに,各種のセミナーを行い,連携を深めている。
さらに,教育面では,生命環境科学研究科が中心となり「環境ディプロマティックリーダーの育成拠点」に採択され,研究面では代表者の恩田が,平成21年度にCRESTの新規課題「荒廃人工林の管理により流量増加と河川環境の改善を図る革新的な技術の開発」に採択されるなど,輝かしい実績を上げてきている。
学内においては,田瀬則雄代表のプレ戦略イニシアティブ「流域圏における水・物質循環科学教育研究拠点」平成19~20年において,特に学際的観点からの最新の動向を調査するため,著名な国内外の研究者を招聘し,講演会を実施するとともにメンバー間の学際的な水に関する相互の理解を深めた。メンバーによる研究会を通じて,COE採択の分析,COE審査委員からの情報および情勢調査,拠点形成に対する情報収集,メンバー,およびGCOEに向けた研究体制,研究プロジェクトの方向性について話し合いがもたれ,次年度以降のG-COE申請への対応,および大型研究資金申請についての話し合いがもたれた。その結果,平成22年G-COE申請に恩田裕一が代表となって「地球環境変動に対応する水・物質循環学」のテーマで申請・採択を目指すこととなったが,文部科学省によるG-COEの募集停止のために,応募がかなわなかった。しかし,現在リーディング大学院プログラム提案に向けて,藻類分野とともにとりまとめを行っている状況である。
平成22年には,浅沼を中心とした,研究科特別経費において『水の世紀』における水問題解決手法に関する知見の統合」において,学内での水関連研究者のグループ化をはかってきた。本提案は,これらの基礎の上に,つくば地区の研究所との連携による学際的なオールつくば体制を構築することを意図したものである。
さらに現在、生命環境科学研究科と中国科学院地理科学資源研究所との間で、日中水資源研究センターを設立する準備が整いつつあり、その事務局を研究科内に置く方向で調整がなされている。これにより、オールつくば体制による取組が、アジア地域全体への取組として発展・展開される体制が、構築されつつあるのである。