筑波大学 放射線・アイソトープ地球システム研究センター 放射性物質環境移行部門

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研究のテーマ・キーワード

■ 水文地形学,山地崩壊メカニズム,斜面水文学
■ 土壌表面侵食メカニズムの解明,同位体地形学(Cs-137, Pb-210ex等を用いた土砂の動態の解明)
■ 森林斜面の環境保全(人工造林と土壌侵食,河川環境への影響等)

具体的な内容

修士論文で水文地形学の研究を行いました。それ以来,水文地形学の研究を行っています(詳しくは恩田ほか編(1996)『水文地形学』,古今書院, 267pp.をご覧ください)。 これまで,私は,主に4つの切り口から,水循環,土砂生産,自然環境に関する研究を行ってきました。第一は,降雨流出機構に関する研究である。 斜面水文学の分野では,1960年代以前は数値モデルを中心とした解析が主流でしたが,1970年代以降の野外観測により,森林山地ではそのモデル(浸透能が低いため流出する)が, 基本的に誤りであることが明らかになっており,現在もまだ発見的な野外研究が盛んに行われています。近年は,基盤岩からの流出の降雨流出に及ぼす影響が新たな発見的研究として脚光をあびつつあり, 我々の研究が注目されています。

第二の研究課題は,斜面崩壊・土砂流出と水の挙動との関連についてです。詳細な現地観測により,従来その原因が不明であった地質の違いによる崩壊発生の違いが,斜面における土層中の水の挙動 基盤岩中の水の挙動の違いにより崩壊の発生頻度が異なることを明らかにしました。また,この問題に付随して,崩壊の発生が豪雨の最中に起こるのか,降雨が停止してから起こるのかという警戒・避難に関する 応用を行いました。さらには,生物活動に伴う土砂流出についても野外観測,実験により研究を行っています。

第三の研究課題は崩壊メカニズムです。これまで,砂状粒子よりなる乾燥斜面の崩壊メカニズムについて,室内実験および数値モデリングによる研究を行いました。その結果,粒状体からなる斜面の安定は, 従来のせん断抵抗角で表されるものではなく,斜面表面粒子の回転が引き起こすことが明らかになりました。

第四の研究課題は土壌表面侵食メカニズムの解明です。人工林,特にヒノキ一斉林では,樹冠の閉鎖が進むと下層植生が消失し,土壌の表面侵食が起こることが知られています。このメカニズムを解明するために, 現地実験,および室内実験を行った。また,火山灰降下域における浸透能低下メカニズムについても明らかにしました。これらのメカニズムの解明に加え,環境同位体Cs-137を用いた評価により,過去における侵食量の推定,流域全体での土砂移動の推定が可能となってきました。

いずれのテーマも,それぞれ密接に関連しあった土地利用,水,地形の研究であり,今後の持続的な環境利用に関して非常に基本的な問題であると考えられます。たとえば,土壌侵食の研究においては, ヒノキ林人工林地では,降雨時に容易に地表流が発生するために,土壌侵食が発生するのみならず,ピーク流量が増大するために下流域の洪水を引き起こし,その一方で渇水期の流量は減少するでしょう。 今後の流出データ,トレーサデータの蓄積および,モデル化を推進することにより,水資源上適切な森林管理方法についての貴重な指針を打ち出すことが期待できます。

それとともに,降雨流出機構に関する研究および,崩壊発生メカニズムの解明に関する研究を引き続き遂行したい。どのような地域において,どのようなタイプの崩壊が発生するかを明らかにすることによって, 地域における有効な土地利用,また警戒避難に大きな影響を与えるものとなるでしょう。



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