特集:Special Issue

測定されたデータを使用するすべての分野において、研究機関は得られた結果に自信を持てなければなりません。
IAEAは加盟国の研究機関に対して、環境試料中の放射性核種、微量元素、有機汚染物質、天然物の安定同位体組成などをチェックするProficiency Test(測定技能試験)を実施しています。
各機関の測定値はブラインドで評定されます。Proficiency Testは、各機関の信頼性を評価することが目的ではなく、それぞれの研究機関がより正確な環境放射能測定を行い、分析結果の信頼性を確保することが趣旨であるためです。それらの結果はIAEAがとりまとめて、レポートを作成します。

今回はそのPTに使用される「竹試料」をIAEAに提供した筑波大学 アイソトープ環境動態研究センター 坂口綾 准教授にお話を伺いました。

― IAEA PTに提供する環境試料として、竹を選んだ理由を教えてください。他の環境試料と竹試料は、利用にどのような目的の違いがありますか?

坂口先生:竹試料は特にアジア地域特有の植物です。非常に繊維質で、このような試料がPT(Proficiency Test) やRM(Reference Material)になったことはこれまでありません。
これは、アジア地域の放射性核種モニタリング・測定の助けとなるでしょう。また、世界的には「低密度試料」のPTとしてチャレンジングな測定となり、放射線測定の技術向上にも貢献する試料となっています。

― どのようなプロセスで作られるのでしょうか。

坂口先生:まず、IAEAがPT/RM作成の際にターゲットとする核種が含まれていて、それらの同度範囲を指定します。。試料は最終的に全世界に配布されるため数百キログラム準備せねばなりませんので、それも含めて採取場所等を選定します。
竹を伐採し、管(木でいう幹の部分)のみをPT試料にする予定であったため、伐採した竹の枝葉は全て切り落としました。

管のみになった竹を、竹専用の粉砕機で細かいチップサイズにしました。この時の総重量は300 ㎏で、これを風乾(部屋に広げて自然乾燥)後にハンガリーの研究所に輸出しました。ハンガリーの研究所では、竹試料の篩分け、均質化、値付けをして最終的にはIAEAのPT試料としての認証を経て世界へ配送されました。

― そのプロセスで難しかったこと、苦労したことなど教えてください。

坂口先生:最初の大仕事は試料の選定でした。IAEAの指定する濃度範囲の竹試料を数百キロ準備せねばならないので、色々な伝手を使って探しました。いくつかの町役場や色々な組合や研究所、個人にお願いをして実際にいくつかの現場にも行きました。最終的には福島大の塚田先生やそのお知り合いの方に多大なるご協力を得て目的の竹を得ることに成功しました。

次の難関は繊維質の竹を小さな(2㎜角)チップ状にすることでした。最初は、数センチ角のチップを準備したのですが、一般的な土壌や植物を粉砕するようなグラインダーではただつぶれるだけで細かくならず色々な方法を試しました。ものすごくお金をかければできないことはないとわかったのですが、なにせ300 kgもあったので思い切って別の方法で検討しなおしました。
最終的には、管のまま装置に入れてグラインドするような竹粉砕機で微細な試料をつくりました。また、コロナ禍であったため、IAEAの専門家も試料準備に召喚することができず自分たちで何とかせねばならなかったのは結構大変でした。

― 試料となった竹からは、何が測定されるのでしょうか。

坂口先生:Cs-134, Cs-137, K-40です。2021年度のPTが終了しましたので、現在は公表することができますね。

― 作られた試料は、具体的にどのように研究に利用されていくのでしょうか。

坂口先生:それぞれの国や地域、研究所によりGe半導体検出器による試料のγ線測定の作法が異なっています。ただ、それにより得られる値の確度や精度が良くないと(正確な値でなかったり、誤差が大きかったりすると)そのデータの意味がなくなってしまいます。
我々が行っている測定方法の確度や精度を確かめるためにProficiency Testが世界の主要機関で一斉に行われ、評価が行われます。また、Reference Materialとして普段の分析の際に一緒に分析して、その分析手法を保証するために使用します。
2021年のPTは終了しましたが、今後は測定の確からしさを証明するようなRMとして利用されていく予定です。

― 今後取り組みたいこと、さらに発展させたいことなどお聞かせください。

坂口先生:実は、2023年PTに向けて日本発の土壌試料も準備しています。あまり詳しい事は言えませんが、日本で乾燥・粉砕処理をしてすでにハンガリーの研究所に輸出しました。引き続き、我々が作成したPT用試料を通じて、世界の放射性物質測定能力や分析技術の向上に貢献していきたいですね。