Vol.6 関東エリアでグラスランドにおける水と熱の観測のデータベース
環境動態予測部門の馬文超研究員にお話を伺いました。
論文の背景について教えて下さい。
アイソトープ環境動態研究センター(CRiED)の環境動態予測部門(EDP)(旧陸域環境研究センター)では、1977年以来、気象・水文要素の長期連続観測を行っており、データをウェブサイトにおいて公開しています。
この高品質データベースは、日本では様々な分野の研究に対しよく使用されていますが、英語ではほとんど紹介されていませんでした。
このデータを利用して書かれた何十年分もの論文を英語でまとめ、紹介したいと思いました。
この論文では37年間、記録されたデータを使用しています。過去のデータを扱う際、困難に感じたことはありましたか?
このデータベースは、観測の種類ごとに、秒単位まで整理されおり、非常に高い時間精度になっています。
データは簡単にダウンロードできますが、データを扱うには、基本データの理解が必要です。このデータベースは数十年に渡って、数十名の研究者の協力を得て作られたものです。観測システムの設置、メンテナンス、修理など、過去の状況を整理し、データの分析方法を理解する必要がありました。1977年から今まで、何回も観測機器と観測方法が変わり、データを標準化するのは非常に難しいです。しかし、圃場に関わる研究者たちがデータの品質を維持しようとした努力の甲斐があり、このデータベースは高い質を保っています。
だからこそ、この論文の準備には、過去のデータを理解しなければならない難しさがあり、時間がかかりましたが、良い勉強になりました。
気象庁とのデータ比較を行っています。データについて教えてください。
データの品質は最も重要ですので、精度と一貫性について信頼性の高いデータと比較することは重要であり、この論文で使用されている37年分の観測値データは、気象庁のデータと比較しても、EDPのデータで良い一貫性と、ある程度の良好な線形性を示しました。
さらに、気象庁が公開していないデータがある場合においても、EDPで観測している為、非常に高精度な時刻データを含んだデータを無料ダウンロードできます。
結びとして「今後もデータ収集を続けたい」とありますが、今後のこういった水文学的なデータはどのような傾向を見せると予測していますか?
水文学的な地球環境のデータは、非常に重要な存在です。様々な研究は、正確な水収支と熱収支の計算の上に成り立っています。このデータベースを、より多くの研究者に利用してもらえたらと思います。更に、EDPはデータを観測収集するだけではなく、理想的な実験場も提供しており、様々な研究実験が多数行われました。
日々観測しているデータを利用し、各専門の実験データと併用することで、沢山の面白い結果を得ることができるのではないでしょうか。

<写真> 静かな観測塔の圃場風景
Ma, W., Asanuma, J., Xu, J., Onda, Y. (2018) A database of water and heat observations over grassland in the north-east of Japan, Earth Syst. Sci. Data, 10, 2295-2309, Doi:10.5194/essd-10-2295-2018