Nature Sustainabilityに論文が発表されました

福島原発事故後の除染が下流域に及ぼした影響を初評価
~土砂流出一時増も放射性セシウム濃度低下と植生回復が影響低減~

原子力産業活動や原子力事故による放射性物質の漏えいは、環境と経済の両面で大きな脅威です。東京電力福島第一原発事故では、半減期が比較的長い放射性セシウム注1)を含む放射性物質が大量に放出されました。政府主導の除染により 放射性セシウムで汚染された土壌が除去され、放射線リスクは低減しましたが、除染が下流域に及ぼす長期的影響は不明のままでした。

福島県内の帰還困難区域を中心とした地域では、2012年から大規模な除染が実施されました。数年のうちに表土の5 cmと植生が除去され、非汚染土壌に置き換わったため、土地被覆が減少しましたが、その後に植生が回復し、によってこれらの除染地域では土地被覆が再び回復しました。除染された地域でのこうした土地被覆の劇的な変化とそれに伴う土砂や放射性セシウムの動きの変化が、下流の生態系にどのような影響を与えたかを総合的に評価することは、環境の持続可能性(Sustainability)の観点からも重要です。

本研究では、広範囲に農地除染注2)が行われた福島県の新田川流域(図1)を対象に、除染された地域での土地利用の変化が、河川の浮遊土砂注3)と懸濁態 137Cs注4) の動態に与える影響について、包括的に評価しました。土地被覆については、政府の除染データを用いて除染地域境界の変遷をマップ化しました。また、衛星画像に基づき、これらの地域の植生量を示す正規化植生指標(NDVI)注5)を作成し、その変化を追跡しました。河川への影響については、除染期(2013-2016年)と自然修復期(2017-2018年)またがる長期的な現地調査を行い、上流2地点と下流2地点の計4地点で水流と濁度注6)(10分の時間分解能)及び懸濁態 137Cs 濃度の変動を継続的に記録しました。

これらのデータとリモートセンシング手法を組み合わせ、上流の除染地域における長期的な土地被覆の変化が、下流の河川環境や太平洋への137Cs流出に及ぼす影響を系統的に明らかにしました。

福島の除染は、放射線レベルの低減が最優先課題ですが、大規模な土地改変を伴うため、下流への影響も考慮する必要があります。福島では除染後の土壌の137Cs濃度の低下と地域の多雨がもたらした速やかな植生回復の結果、下流への影響は短期的かつ限定的でした。しかし、一方で、大規模な土地改変が、必ずしも下流への影響を低減するとは限らないことを、本研究は示しています。今後、放射性物質を含むさまざまな汚染物質への対策として大規模な土地改変を検討する場合は、地域の植生回復条件を事前に評価したり、適切な緑化対策を準備したりして、下流の持続可能性に与える影響を最小化することが求められます。

論文情報

【題 名】:Persistent impact of Fukushima decontamination on soil erosion and suspended sediment
(福島原発の除染が土壌侵食と下流の浮遊土砂に与える長期的影響)
【著者名】:Bin Feng, Yuichi Onda*, Yoshifumi Wakiyama, Keisuke Taniguchi, Asahi Hashimoto, Yupan Zhang
【掲載誌】Nature Sustainability
【掲載日】2022年7月14日
【DOI】10.1038/s41893-022-00924-6

関連リンク

  • プレスリリース(PDF資料)筑波大学HPへジャンプします
    研究代表者 

    筑波大学生命環境系/アイソトープ環境動態研究センター(CRIED)
    恩田 裕一 教授

2022年度ERANキックオフミーティング開催報告

今年度もオンラインでの開催になりましたが、150を超えるポスター発表があり、活発なディスカッションが行われました。
共同研究も様々な分野から採択され、今後の発展がさらに期待されます。


2021年度 ERAN年次報告会開催報告

2022年2月14日、ERAN年次報告会を開催いたしました。
今年度もオンラインでの開催となりましたが、11の国と地域から161名(うち外国人研究者39名)の参加があり、126のポスター発表について活発なディスカッションが行われました。

特集:IAEA PT用試料作成を聞く

測定されたデータを使用するすべての分野において、研究機関は得られた結果に自信を持てなければなりません。
IAEAは加盟国の研究機関に対して、環境試料中の放射性核種、微量元素、有機汚染物質、天然物の安定同位体組成などをチェックするProficiency Test(測定技能試験)を実施しています。
各機関の測定値はブラインドで評定されます。Proficiency Testは、各機関の信頼性を評価することが目的ではなく、それぞれの研究機関がより正確な環境放射能測定を行い、分析結果の信頼性を確保することが趣旨であるためです。それらの結果はIAEAがとりまとめて、レポートを作成します。

今回はそのPTに使用される「竹試料」をIAEAに提供した筑波大学 アイソトープ環境動態研究センター 坂口綾 准教授にお話を伺いました。

― IAEA PTに提供する環境試料として、竹を選んだ理由を教えてください。他の環境試料と竹試料は、利用にどのような目的の違いがありますか?

坂口先生:竹試料は特にアジア地域特有の植物です。非常に繊維質で、このような試料がPT(Proficiency Test) やRM(Reference Material)になったことはこれまでありません。
これは、アジア地域の放射性核種モニタリング・測定の助けとなるでしょう。また、世界的には「低密度試料」のPTとしてチャレンジングな測定となり、放射線測定の技術向上にも貢献する試料となっています。

― どのようなプロセスで作られるのでしょうか。

坂口先生:まず、IAEAがPT/RM作成の際にターゲットとする核種が含まれていて、それらの同度範囲を指定します。。試料は最終的に全世界に配布されるため数百キログラム準備せねばなりませんので、それも含めて採取場所等を選定します。
竹を伐採し、管(木でいう幹の部分)のみをPT試料にする予定であったため、伐採した竹の枝葉は全て切り落としました。

管のみになった竹を、竹専用の粉砕機で細かいチップサイズにしました。この時の総重量は300 ㎏で、これを風乾(部屋に広げて自然乾燥)後にハンガリーの研究所に輸出しました。ハンガリーの研究所では、竹試料の篩分け、均質化、値付けをして最終的にはIAEAのPT試料としての認証を経て世界へ配送されました。

― そのプロセスで難しかったこと、苦労したことなど教えてください。

坂口先生:最初の大仕事は試料の選定でした。IAEAの指定する濃度範囲の竹試料を数百キロ準備せねばならないので、色々な伝手を使って探しました。いくつかの町役場や色々な組合や研究所、個人にお願いをして実際にいくつかの現場にも行きました。最終的には福島大の塚田先生やそのお知り合いの方に多大なるご協力を得て目的の竹を得ることに成功しました。

次の難関は繊維質の竹を小さな(2㎜角)チップ状にすることでした。最初は、数センチ角のチップを準備したのですが、一般的な土壌や植物を粉砕するようなグラインダーではただつぶれるだけで細かくならず色々な方法を試しました。ものすごくお金をかければできないことはないとわかったのですが、なにせ300 kgもあったので思い切って別の方法で検討しなおしました。
最終的には、管のまま装置に入れてグラインドするような竹粉砕機で微細な試料をつくりました。また、コロナ禍であったため、IAEAの専門家も試料準備に召喚することができず自分たちで何とかせねばならなかったのは結構大変でした。

― 試料となった竹からは、何が測定されるのでしょうか。

坂口先生:Cs-134, Cs-137, K-40です。2021年度のPTが終了しましたので、現在は公表することができますね。

― 作られた試料は、具体的にどのように研究に利用されていくのでしょうか。

坂口先生:それぞれの国や地域、研究所によりGe半導体検出器による試料のγ線測定の作法が異なっています。ただ、それにより得られる値の確度や精度が良くないと(正確な値でなかったり、誤差が大きかったりすると)そのデータの意味がなくなってしまいます。
我々が行っている測定方法の確度や精度を確かめるためにProficiency Testが世界の主要機関で一斉に行われ、評価が行われます。また、Reference Materialとして普段の分析の際に一緒に分析して、その分析手法を保証するために使用します。
2021年のPTは終了しましたが、今後は測定の確からしさを証明するようなRMとして利用されていく予定です。

― 今後取り組みたいこと、さらに発展させたいことなどお聞かせください。

坂口先生:実は、2023年PTに向けて日本発の土壌試料も準備しています。あまり詳しい事は言えませんが、日本で乾燥・粉砕処理をしてすでにハンガリーの研究所に輸出しました。引き続き、我々が作成したPT用試料を通じて、世界の放射性物質測定能力や分析技術の向上に貢献していきたいですね。


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動画:原発事故から10年-これまで・今・これからの農業現場を考える

概要

2021年11月5日に開催された日本土壌肥料学会主催シンポジウム「原発事故から10年-これまで・今・これからの農業現場を考える」の講演動画が公開されています。

東日本大震災および東京電力福島第一原子力発電所事故から10年を迎え、農業現場で直面した課題とその解決に向けた取り組み、さらには今後の展望について、各分野の研究者が最新の知見を紹介しています。

ERAN採択者である筑波大学 古川純准教授は、「水稲におけるセシウムの吸収と体内での動き」と題して講演を行い、水稲による放射性セシウムの吸収・移行メカニズムや、農業分野における放射線研究の成果について解説しています。

ぜひご覧ください。

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動画

自然放射線の評価から原子力事故の防護対応まで-世界で活躍する “放射線のプロフェッショナル” を育成

写真:JcRIC掲載記事より

概要文

Interview by JcRIC

国立大学附置研究所・センター会議「未踏の領野に挑む、知の開拓者たち」において、弘前大学 被ばく医療総合研究所 床次眞司教授のインタビュー記事が掲載されています。

本インタビューでは、自然放射線の評価から原子力事故時の放射線防護まで、長年にわたり取り組んできた研究や教育活動について紹介されています。また、放射線計測・防護分野で活躍する人材育成や、国際的な研究活動についても語られています。

ぜひご覧ください。

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インタビュー

歴史に残る原発事故、その記録を精緻に-世界に、そして後世に伝える

写真:JcRIC掲載記事より

概要

Interview by JcRIC

国立大学附置研究所・センター会議「未踏の領野に挑む、知の開拓者たち」において、筑波大学 アイソトープ環境動態研究センター 恩田裕一教授のインタビュー記事が掲載されています。

本インタビューでは、東京電力福島第一原子力発電所事故後の環境放射能研究や長期モニタリング、事故の記録を科学的に蓄積・発信することの重要性について紹介されています。また、将来の研究や次世代への継承に向けた取り組みについても語られています。

ぜひご覧ください。

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インタビュー

2021年度ERANキックオフミーティング開催報告

2021年5月24日(月)に2021年度ERANキックオフミーティングが開催されました。
今年度もコロナウィルスの影響でフラッシュトークをWebEx会場で、またポスター発表をRemo会場でとオンラインでの開催となりました。
130名を超える多くの方に来場いただき、活発なディスカッションが行われました。
ERAN開始から3年目となり、さまざまな分野からの共同研究への参加が増えました。分野横断的に研究が進められ、今後の発展に繋がっていくことが期待されます。


2020年度 ERAN年次報告会開催報告

今年度もコロナウィルスの影響により、年次報告会は3月15日にオンライン開催となりましたが、国内外から約100名の方々にご参加いただきました。

全体ミーティングおよび研究成果のフラッシュトークをWebExで行い、またポスター発表についてはRemoを使用し、対面により近い環境でディスカッションを進めることができました。
今年度は国内外から122件のポスター発表がありました。震災後10年経つ中においても解決しなければならない課題は多く、コロナ禍にあっても、国内外の研究者らが拠点関連研究機関との共同研究により122件もの研究を発表できたことは、まさに当ネットワークや所属研究者らの研究活動の賜物であります。

ネットワーク機関、関係機関と分野横断的にさらなる研究の発展を目指して、今後とも取り組んでまいります。

筑波大学、福島大学、JAEAの研究成果が記事になりました:時事通信

筑波大学、福島大学、JAEAの研究成果が記事になりました。
東京電力福島第1原発事故で放出された放射性物質のうち、半減期が約30年と長いセシウム137が環境に与える影響は、1986年の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故よりも早く低減していることについて書かれています。
「放射能影響、早期に低減 地中へ移行、河川流出少なく―筑波大など・福島原発事故」
2021年3月7日付