福島原発事故後の除染が下流域に及ぼした影響を初評価
~土砂流出一時増も放射性セシウム濃度低下と植生回復が影響低減~

【題 名】:Persistent impact of Fukushima decontamination on soil erosion and suspended sediment
(福島原発の除染が土壌侵食と下流の浮遊土砂に与える長期的影響)
【著者名】:Bin Feng, Yuichi Onda*, Yoshifumi Wakiyama, Keisuke Taniguchi, Asahi Hashimoto, Yupan Zhang
【掲載誌】Nature Sustainability
【掲載日】2022年7月14日
【DOI】10.1038/s41893-022-00924-6

原子力産業活動や原子力事故による放射性物質の漏えいは、環境と経済の両面で大きな脅威です。東京電力福島第一原発事故では、半減期が比較的長い放射性セシウム1を含む放射性物質が大量に放出されました。政府主導の除染により 放射性セシウムで汚染された土壌が除去され、放射線リスクは低減しましたが、除染が下流域に及ぼす長期的影響は不明のままでした。

福島県内の帰還困難区域を中心とした地域では、2012年から大規模な除染が実施されました。数年のうちに表土の5 cmと植生が除去され、非汚染土壌に置き換わったため、土地被覆が減少しましたが、その後に植生が回復し、によってこれらの除染地域では土地被覆が再び回復しました。除染された地域でのこうした土地被覆の劇的な変化とそれに伴う土砂や放射性セシウムの動きの変化が、下流の生態系にどのような影響を与えたかを総合的に評価することは、環境の持続可能性(Sustainability)の観点からも重要です。

本研究では、広範囲に農地除染注2)が行われた福島県の新田川流域(図1)を対象に、除染された地域での土地利用の変化が、河川の浮遊土砂注3)と懸濁態 137Cs注4) の動態に与える影響について、包括的に評価しました。土地被覆については、政府の除染データを用いて除染地域境界の変遷をマップ化しました。また、衛星画像に基づき、これらの地域の植生量を示す正規化植生指標(NDVI)5を作成し、その変化を追跡しました。河川への影響については、除染期(2013-2016年)と自然修復期(2017-2018年)またがる長期的な現地調査を行い、上流2地点と下流2地点の計4地点で水流と濁度注6)(10分の時間分解能)及び懸濁態 137Cs 濃度の変動を継続的に記録しました。

これらのデータとリモートセンシング手法を組み合わせ、上流の除染地域における長期的な土地被覆の変化が、下流の河川環境や太平洋への137Cs流出に及ぼす影響を系統的に明らかにしました。

福島の除染は、放射線レベルの低減が最優先課題ですが、大規模な土地改変を伴うため、下流への影響も考慮する必要があります。福島では除染後の土壌の137Cs濃度の低下と地域の多雨がもたらした速やかな植生回復の結果、下流への影響は短期的かつ限定的でした。しかし、一方で、大規模な土地改変が、必ずしも下流への影響を低減するとは限らないことを、本研究は示しています。今後、放射性物質を含むさまざまな汚染物質への対策として大規模な土地改変を検討する場合は、地域の植生回復条件を事前に評価したり、適切な緑化対策を準備したりして、下流の持続可能性に与える影響を最小化することが求められます。

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研究代表者 

筑波大学生命環境系/アイソトープ環境動態研究センター(CRIED)
恩田 裕一 教授

放射線安全管理部    アイソトープ基盤研究部門

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