放射線安全管理部    アイソトープ基盤研究部門

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論文紹介 ~長崎幸夫先生



   Vol.4 放射線保護能を有するナノメディシンの開発


 アイソトープ基盤研究部門の長崎幸夫先生にお話を伺いました。

論文の背景について教えて下さい。


放射線保護剤は、放射線誘導致死を含め、その損傷効果を低減するために、電離放射線への曝露前に投与される薬剤です。強力な放射線保護剤は、放射線治療、宇宙旅行、放射能汚染域の除染、放射線テロと軍事攻撃、原子力事故や放射線業務従事者の日々の保護など、様々な応用が期待されています。しかし、現状では、効果的な放射線保護剤は殆どありません。かろうじて認可されている二種類の薬剤は強い副作用が問題となっています。このため、放射線防護効果を持つ新薬の開発が非常に重要でありますが、特に効果的な薬物が開発に乗っていないのが現状です。

 

放射線の生体に対する障害性は、おもに被爆により生体の構成成分である水分子の電離分解で生じる種々の活性酸素種(ROS)によると考えられています。このような疾病に関与するROSを消去するためには、ビタミンCやEなどの天然物や様々な合成抗酸化剤が開発され、検討されてきていますが、殆どすべての臨床結果で効果はありませんでした。長崎らのグループは、自己組織化ナノ粒子に抗酸化能を創り込み、副作用を惹起せず、疾病に関与するROSを選択的に取り除く新しいナノメディシンの設計を進めてきました。

 

ナノメディシンマウス投与イメージ

今回、医学医療系の坪井教授らと共同でこの抗酸化ナノメディシンのマウス皮下に投与により、致死レベル以上の放射線被曝でも強い保護効果を示すことを確認しました。これらの成果は福島原発近傍での安全な作業や宇宙旅行、放射線医療など様々な可能性を含む新しい技術で、今後の開発が期待されます。

 

ナノメディシンについて、もう少し詳しく教えてください。


簡単に言うと抗酸化剤なんです。酸化ストレスというものがあって、活性酸素種がいろんな病気に関与します。ガンや脳梗塞、パーキンソン病、アルツハイマー、潰瘍性大腸炎、放射線障害、それから加齢ですね。いろんなものがあるんですが、なんでもかんでも活性酸素が悪さをしているんじゃないか、ということがわかってきています。ところがこれまでの抗酸化剤は正常な細胞を破壊してしまうので問題があったのです。我々は抗酸化剤をナノ粒子化してこれらの疾患を効果的に治すことができるようになってきました。それで今回は大問題となっている放射線の害を防ごうという実験をすすめ、良い結果が得られたわけです。

 

福島の原子炉の中では、2017年2月の段階でまだ毎時530シーベルトの放射線が漏れ出ています。6年経ってもまったく減っていないんです。6年どころか、これが何十年、百年続くのかというのが問題です。ヒトの致死量は7シーベルトですから凄い汚染環境下にあるわけです。放射線というのは、生物が被爆すると様々な反応を起こすわけですが、とりわけ活性酸素種の害がおおきいのです。ネズミに致死量の放射線を当てると、臓器のほとんどすべてが出血します。放射線が当たると活性酸素種が出て、それが血流に乗って体内をぐるぐる回るわけです。その間に、血管の血管壁の細胞にこの活性酸素が反応するので、血管壁の細胞が壊れちゃうんですね。そうすると、血液が保たれなくて殆どすべての臓器から出血するわけです。

 

これまで開発されてきた低分子の抗酸化剤を使っても、出血痕が同じようにできます。これは低分子抗酸化剤が正常細胞を破壊してしまうだけではなくて、投与しても非常に速やかに代謝されて体外に出てしまいますからプロテクションの効果が持続できないわけです。ナノ粒子では正常細胞を壊しませんが、血中を長い間ぐるぐると回るので、被爆後の活性酸素種を効果的に消去できる訳です。ですから臓器の出血痕ができない訳です。放射線を浴びても、ナノ粒子はその被爆の影響を減弱することができます。

 

被ばくに対するプロテクションは、世界中でほとんど薬がないんです。認可されているものは二つあるんですけど、それらは副作用が非常に強い。これらは、放射線治療のときの副作用を抑えるためです。放射線治療をやるのに被ばくしますから、副作用があっても我慢しましょうということです。

 

原発内で働くときには、健康な作業員が強い被ばくする前に投与して、それが副作用を起こしては困りますよね。その意味では、こうやってナノ粒子化して副作用がなくなったということで、非常に実用的な放射線防護効果が期待できます。

もう飲み薬として実用化できる状態なのですか?


それはこれからやらないといけないですね。今のところは皮下注射ですが、条件をきちんと選べば飲み薬でもできると思っています。皮下注射の方が効果出るので今回は最初の実験なのでこれで進めたのですが、ゆくゆくは飲み薬にしたいと思っています。

実際に実用化したときに、ものすごく高額になってしまうとか、そういうこともなさそうですか?


僕らはそこのところをやりたいので、合成材料で研究しているんです。合成高分子というのは、例えば今注目のタンパク質の製剤が数百万円や数千万円もするように、ものすごいコストが掛かるものと比べると非常に安いです。キロ数千円とか1万円とかいうレベルでできるので、もちろん製薬会社の利益も必要でしょうけど、それでもあまりにも馬鹿げているような値段にはならないと思っています。

これから実用化するに当たって課題になるところは何でしょうか?


新しい物質、新しい粒子なので、薬として使う場合には長い時間が必要です。僕らが調べている安全性と、認可を取るためのレギュレーションにのっとった安全性のデータが違うので、それに必要なデータを取り、それから臨床試験をやります。こういう開発には、時間とお金がいっぱいかかります。億単位、何十億単位とかかってくるので、そのへんはうまい具合に製薬企業などとタイアップしながら開発していかないといけないなと思っています。ただ、あんまり儲けのためっていうよりは、こういう社会的なニーズが非常に高い場合には、国や公的な機関が率先してやっていくようなことは必要だろうなという気がしてるんですけどね。まだなかなかそういうサポートが得られていないですけど(笑)。

 

放射線の問題は原発だけではありません。放射線治療というのは世界中の病院で行われていて、しかし治療した人は必ず副作用で苦労しています。そう考えると、一企業の問題ではなくて社会としてやるべきだろうなと思うので、そういうところに働きかけて早く開発したいなと思っています。まだ第一弾が出たばかりなので、すぐにたくさん開発できるような状況ではないですけど、なんとかがんばっていきたいです。


Feliciano CP., Tsuboi K., Suzuki K., Kimura H., Nagasaki Y. (2017) Long-term bioavailability of redox nanoparticles effectively reduces organ dysfunctions and death in whole-body irradiated mice. Biomatrials, 129: 68-82. DOI:10.1016/j.biomaterials.2017.03.011


[NAGASAKI LABORATORY Website] http://www.ims.tsukuba.ac.jp/~nagasaki_lab/index.htm


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